物語り
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·読了目安 14分脇役

竜は日暮れを裏切らなかった

田舎の白亜坑で五人きょうだいが掘り当てたのは、鱗の艶を失った気難しい仔竜だった。一日に一度、日没までしか続かない願いを渋々叶える仔竜との夏。繰り返す騒動の奥で、きょうだいは仔竜がなぜ一人で土の底に眠っていたのかを知る。

一 予兆の白亜坑、楡の家に着いた五人

汽車を三度乗り継ぎ、それから荷馬車に揺られること半日、五人きょうだいがハロウデール村に着いたのは、夏休みが始まって三日目の昼下がりだった。窓の外を流れていく煤けた街並みが、やがて麦畑と生垣ばかりの景色に変わっていくのを、五人は代わる代わる窓に張りついて眺めていた。

父は仕事で遠い異国に発ち、母は体を壊した祖母の看病のために海辺の町へ発った。残された五人は、村はずれに建つ古い農家「楡の家」に、夏の終わりまで預けられることになったのだった。長女のメイは十二歳、聞き分けがよく、何かというと妹弟の面倒を見たがる質だった。長男のトムは十一歳、思いついたら後先を考えずに動く性分で、荷馬車が屋敷の前庭に着くなり、真っ先に古井戸を覗きに走っていった。次男のロビンは九歳、竜や騎士の出てくる古い物語ばかり読みふけっていて、道中もずっと分厚い本を膝の上に広げたままだった。次女のベティは七歳、口の達者な、大人の言うことをそのまま鵜呑みにしない賢しさを持った娘だった。そして末の弟ネッドは、まだ一歳になったばかりの赤ん坊で、誰かの腕に抱かれているのがいちばんの仕事だった。

楡の家を長く預かってきた老いた家政婦、モリー婆さんは、埃をかぶった玄関の扉を開けて五人を迎え入れると、荷物を運び入れる暇も与えぬうちに、こう釘を刺した。

「お屋敷の裏手にある白亜坑には、あんまり近づかないほうがいいですよ。昔から、あそこで足を挫いた子供の話ならいくらでもありますからね」

「石灰岩の採掘場、ってことですか」ロビンが本から顔を上げて尋ねた。

「昔はそう使われていたんですがね。今はもう掘り尽くされて、村の誰も入りやしません。もっとも」モリー婆さんは声をわずかに落として続けた。「この村の年寄りの中には、あの坑の底に、うんと大昔から何かが眠っているんだと言う者もいますよ。もちろん、真に受けるようなことじゃありませんけどね」

トムとベティは顔を見合わせて笑ったが、ロビンだけは真剣な顔で聞き入っていた。メイは「危ないことはしないでね」と釘を刺しながらも、その目にはすでに隠しきれない好奇心の色が浮かんでいた。

楡の家そのものも、五人にとっては見るもの触れるものすべてが目新しかった。低い梁が張り出した天井、蔦の這う煙突、軋む階段の踏板。子供部屋にあてがわれた屋根裏の一室からは、窓越しに麦畑と、その向こうに白くえぐれた台地が小さく見えた。初日の夜、五人は蝋燭の灯りを囲んで、モリー婆さんの話を蒸し返しては、あれこれと想像を膨らませた。

「何が眠っているんだろう。骸骨とか、財宝とか」トムが目を輝かせて言うと、ロビンは持参した物語集の頁をめくりながら、「僕の本に出てくる竜は、たいてい宝物の番人だ。もしかしたら本物の竜が眠っているのかもしれない」と大真面目に言い添えた。ベティはその話を半分も信じていない顔をしながらも、寝台に潜り込む前に一度だけ、窓の外に見える白い斜面をじっと見つめていた。

荷ほどきもそこそこに、翌朝から五人は連れ立って屋敷の裏手へと回ってみた。丈高い草をかき分けて進むと、すり鉢状にえぐれた白い斜面が、午後の光を照り返して現れた。採掘の跡らしい段差のあちこちに、乾いた土や砕けた石灰岩が積もっている。奇妙なことに、坑の中ほどだけ、周りより地面がわずかに温かいような気がした。夏の日差しのせいだと言ってしまえばそれまでだったが、鳥たちがその一角だけを避けて飛んでいることに、メイは何となく気づいていた。

「ここ、何だか妙な感じがする」ベティが白い土を踏みしめながら呟いた。

「妙な感じって、幽霊でも出そうだってこと?」トムがからかうように言うと、ベティはむっとして「そうじゃなくて、待っててもらっているみたいな感じ」と言い返した。誰もその言葉の意味を深く考えはしなかったが、その日の夕食のあいだも、翌朝の食卓でも、話題は自然とその坑のことに戻っていった。三日目の朝、示し合わせたわけでもないのに、五人はまた同じ場所に足を運んでいた。

二 白亜坑の底、掘り出された仔竜

「ここを掘ってみよう」

トムがそう言い出したのは、四日目の朝のことだった。何度も坑に通ううちに、地面が温かく感じられる一角に、うっすらとした窪みがあることに気づいたのだ。五人は家から持ち出した小さなシャベルと素手を使い、代わる代わる土を掘り始めた。日が高くなるにつれ額に汗が滲み、ベティなどは何度も投げ出しそうになったが、そのたびにロビンが「僕の読んだ本では、こういうときこそ諦めない者が宝を見つけるんだ」と励まし、また土をかき始めるのだった。

半刻ほど掘り進めたところで、ロビンのシャベルの先が、何か硬いものに当たった。土を払いのけると、それは石ではなく、鈍く光る鱗のようなものだった。五人は息を呑んで顔を見合わせ、それから夢中で周りの土をかき出した。

現れたのは、犬ほどの大きさに縮こまった、一頭の竜だった。艶を失いかけた鱗はくすんだ灰緑色で、片方の角は先が欠け、閉じた瞼のあたりには長い眠りの証のような皺が刻まれている。誰かが悲鳴を上げる間もなく、その竜は億劫そうに片目を開けた。

「掘り出すなら、もう少し丁寧にやってもらいたいものだな」

しわがれた、しかし確かに人の言葉を紡ぐ声だった。ベティが真っ先に我に返って言った。

「しゃべった! この竜、しゃべったよ!」

「当然しゃべる。おまえたちの祖先が、まだ木の上で暮らしていた頃から、私は言葉というものを知っているのだからな」

竜は面倒くさそうに身を起こすと、固まった体をほぐすように大きく伸びをした。翼はすっかりしぼんでしまっていて、とても飛べそうには見えなかった。メイが恐る恐る尋ねた。

「あなたは、ずっとこの下で眠っていたの?」

「そうだ。もっとも、掘り出されるつもりなど毛頭なかったのだがな」竜はうんざりしたように鼻を鳴らした。「言っておくが、私に触れるでない。それから、水も好かん。この二つを守れないなら、さっさと埋め戻してもらったほうがましだ」

トムが好奇心に負けて指先で鱗をつつこうとすると、竜は驚くほど素早く尻尾をしならせてその手を払いのけた。痛くはなかったが、五人はその意外な敏捷さに縮み上がった。

「大昔、私たちの一族はな、気が向けば人間の願いをひとつふたつ、叶えてやったものだ」竜は誰に聞かせるでもなく、独り言のように続けた。「今の私にできるのは、せいぜい一日にひとつ、しかも日没までしか保たない、ささやかな願いを叶えることぐらいだがな。しかも、私から進んで叶えてやるつもりはない。おまえたちが望めば、仕方なく応じてやるだけのことだ」

「願いを叶えてくれるの?」ロビンが身を乗り出した。

「叶えると言った。だが期待しすぎるな。私の力は、若い頃とは比べ物にならないほど衰えている」

五人は顔を見合わせた。誰からともなく、その日の願いを口にする役目を押し付け合うように視線が行き交ったが、結局、いちばん気の早いトムが「じゃあ、僕たちを誰よりも強くしてよ!」と叫んでしまった。メイが「ちょっと、もっとよく考えてから」と止めようとしたときには、もう遅かった。

竜は面倒くさそうに片方の前脚を持ち上げ、何ごとかを唱えた。次の瞬間、五人の体には、見たこともないほどの力がみなぎっていた。

三 日暮れの約束、綻びていく願い

力を得た五人は、その日の午後、村じゅうを走り回って大騒ぎを起こした。トムは井戸の水を満たした桶を片手で持ち上げて庭師を驚かせ、ロビンは薪割りの斧を面白がって振り回し、あわや隣家の垣根を真っ二つにするところだった。メイは重い荷馬車を持ち上げようとして、御者の老人を腰を抜かさせてしまった。ベティだけは慎重に力を試していたが、それでも興奮を抑えきれず、井戸の縁石をひと突きで欠けさせてしまった。

騒ぎを聞きつけたモリー婆さんが血相を変えて駆けつけた頃、五人はようやく、村人たちの視線が自分たちに集まっていることに気づいた。「悪魔にでも取り憑かれたんじゃないか」という陰口が聞こえてくるに至って、さすがのトムも青ざめた。だが日が傾き始めると、体にみなぎっていた力は潮が引くように消えていき、太陽が地平線に沈みきる頃には、五人はすっかり元通りの、ただの子供に戻っていた。垣根の傷や井戸の欠けだけが、昼間の出来事が夢でなかったことを物語っていた。

「日没までしか保たないって、本当だったんだね」メイが胸を撫で下ろしながら呟いた。

「言っただろう」土の中から顔だけ覗かせた竜が、億劫そうに答えた。「日が沈めば、私の力は残らず引っ込む。それだけは、私が決して破らない決まりだ」

「なんで、日没までって決めてるの?」ベティが無邪気に尋ねた。竜は一瞬、答えを探すように黙り込んだが、やがて「今はまだ、話す気になれん」とだけ言って、また土の中に潜ってしまった。

その日を境に、五人は少し慎重になった。翌日はロビンが「屋敷いっぱいの金貨が欲しい」と願い、竜が唸るような息を吐きながらそれを叶えると、確かに屋根裏部屋は見たこともない金貨で埋め尽くされた。だが村の雑貨屋で買い物をしようとすると、店主は見慣れぬ紋様の刻まれた金貨を胡散臭そうに眺め、「これはいったいどこの国の金貨だね」と警吏を呼ぶと言い出す始末だった。五人は必死に「祖父の遺品だ」と言い訳をして回り、日が沈んで金貨がすべて土くれに変わってしまうまで、生きた心地がしなかった。

次の日はメイが「誰からも好かれる美しさが欲しい」と願い、確かに見違えるほど整った顔立ちになったものの、村の青年たちがこぞって花束を手に屋敷に押しかけてくる騒ぎになった。メイは慌てて屋根裏部屋に隠れ、日が沈んで元の顔に戻るまで、二度とこんな願いは口にしないと固く誓う羽目になった。

さらに次の日には、ロビンが「みんなで空を飛べるようになりたい」と願った。翼など生えなかったものの、五人の体はふわりと軽くなり、思うがままに雲の上まで舞い上がれるようになっていた。麦畑の上を滑空し、教会の尖塔をかすめて飛ぶうちは、誰もが我を忘れてはしゃいでいた。ところが空高くに上がりすぎたところで、羊飼いの老人が空を指差して腰を抜かし、村じゅうが「悪魔の使いが飛んでいる」という騒ぎになった。慌てて地上に戻ろうとしたベティは、下降の加減が分からず、干し草の山に頭から突っ込んで、しばらく口の中から藁を取り出す羽目になった。日が傾き、浮遊の力が抜けていく感覚を覚えながら地面に降り立ったとき、五人は声を揃えて「もう空を飛ぶ願いはこりごりだ」と誓い合った。

そんなある夕方、にわか雨が降り出した。竜が水を極端に嫌うと知っていた五人は、慌てて坑へ駆けつけると、傘を差しかけたり、余った板切れで覆いを作ったりして、竜を雨から守ろうとした。竜は「余計な世話だ」と憎まれ口を叩きながらも、板切れの下でおとなしく雨宿りを続けていた。

「本当は、ちょっとだけ嬉しいくせに」ベティがにやりと笑うと、竜は答える代わりに、ふいと顔を背けた。それでも、五人が雨の中で濡れながら板を支え続けているあいだ、竜は珍しく一言も皮肉を口にしなかった。

それ以来、五人は少しずつ、竜との付き合い方を覚えていった。派手な願いは災いを呼ぶことを学び、「今日は隣の畑仕事を早く終わらせられる力が欲しい」といった、ささやかな願いを口にするようになっていった。竜は相変わらず、触れられることも水も嫌がり、ぶっきらぼうな口を利いたが、日ごとに掘り出す土の中から顔を出す姿は、どこか五人を待っているようにも見えた。

水も食べ物も受け付けない竜のために、五人は何をしてやれるだろうかと話し合った末に、ロビンが「日向ぼっこがいちばん好きなんじゃないか」と思いつき、朝いちばんに坑を訪れては、竜の寝床の周りの草を刈り、日差しがよく当たるように土を均すようになった。竜は「余計なことを」と文句を言いながらも、日を追うごとに、鱗にわずかながら艶が戻っていくように見えた。ベティなどは、竜の機嫌をうかがっては野の花を摘んできて、坑の縁にそっと並べていくことを日課にしていた。

ある夕方、ベティが「あなた、本当はさびしいんじゃないの」と何気なく言うと、竜は「戯言を」と鼻で笑いながらも、その夜だけは、いつもより長く地上に留まっていた。

四 バクスターの企み、最後の力

夏も半ばを過ぎた頃、村に一人の見世物師が滞在するようになった。名をバクスターといい、珍しい品を売り買いしては村々を渡り歩く男だった。村の子供たちが急に力持ちになったり、素性の知れない金貨が出回ったりしているという噂を聞きつけると、バクスターは持ち前の抜け目なさで、その裏に何かがあると勘付いた。

はじめのうち、バクスターは村の宿でそれとなく子供たちのことを聞き回った。雑貨屋の主人から金貨の話を、御者の老人から力持ちの話を、羊飼いの老人から空飛ぶ子供たちの話を、青年たちからメイの美しさの噂を聞き集めるうち、彼の疑いは次第に確信へと変わっていった。ある日、バクスターは何食わぬ顔で楡の家を訪ね、「珍しい骨董品を探しているのだが、この村で不思議な話を聞かないか」と探りを入れてきた。トムがうっかり口を滑らせそうになったのを、メイが横から肘でつついて止めたほどだった。それでもバクスターの目には、子供たちの落ち着かない態度そのものが、何よりの手がかりに映ったらしい。

その晩、こっそりと五人の後をつけたバクスターは、白亜坑の底で竜が言葉を交わす姿を、生垣の陰から目にしてしまった。息を殺してその一部始終を見届けたバクスターの口元には、これまでにない下卑た笑みが浮かんでいた。

翌朝、五人が坑に着くと、バクスターはすでに坑の縁に立って待ち構えていた。

「なるほどな。願いを叶える竜、というわけか」

バクスターは下卑た笑みを浮かべながら、坑の底へと降りてきた。トムが庇うように前に出たが、大人の力に敵うはずもなかった。

「聞け、竜よ。私の望みはひとつだ。一生かかっても使い切れないほどの富を、この場で永遠に叶えてもらおうか。日暮れで消えるような半端な力ではなく、な」

竜は片目を細めて、値踏みするようにバクスターを見つめた。

「永遠の富、か。それを叶えるには、私の残された力をすべて注ぎ込まねばならん。……お前は、それがどういうことか分かっているのか」

「知ったことか。お前がどうなろうと、私の知ったことではない」

その言葉を聞いた瞬間、竜の瞳の奥に、深い疲れのようなものが浮かんだ。

「昔も、同じ台詞を聞いたことがある」竜はぽつりと言った。「大昔、私にはある村があった。日照りに苦しむその村の長が、いつか終わらぬ豊かさを、と私に願った。私は止めるべきだった。だが当時の私は、今よりずっと若く、そして愚かだった。願いを叶えた途端、村は際限のない豊かさを奪い合い、互いを疑い、ついには争いの果てに滅んでしまった。私が最も大切に思っていた友も、その争いの中で命を落とした」

五人は言葉を失った。竜の声には、怒りよりも、長い年月を経てなお癒えない悲しみがにじんでいた。

「それ以来、私は誓ったのだ。二度と大きすぎる願いは叶えぬ、と。せめて日没という区切りだけは、決して裏切らぬ、と。……力を失い、地の底に一人で潜ったのも、その誓いを守り抜くための、私自身が選んだ罰だ」

バクスターは竜の言葉になど耳を貸さず、「昔語りなど聞きたくない。さっさと願いを叶えろ」と苛立たしげに叫んだ。それでも竜が動かずにいると、業を煮やしたバクスターは懐から鉄の鎖を取り出し、竜に投げかけようとした。

「やめて!」

ベティが叫んで飛び出すと、メイとロビンもすかさずそれに続き、五人は身を挺して竜の前に立ち塞がった。バクスターは一瞬たじろいだが、すぐに苛立たしげに鎖を振り上げた。

竜は静かに目を伏せ、それから、これまで五人に見せたことのない、決然とした表情を浮かべた。

「よかろう。だが、お前の望む形では叶えぬ」

竜が咆哮とも呻きともつかない声を上げると、坑全体が眩い光に包まれた。バクスターの足元の土が突然崩れ、彼は悲鳴を上げながら坑の外まで転がり出た。光が収まった頃には、バクスターは自分が何を求めてこの村へ来たのかさえ、すっかり忘れたような呆けた顔をして、鎖を放り出したまま、覚束ない足取りで村を去っていった。

光が消えたあとの坑の底で、竜はぐったりと横たわっていた。鱗の艶はさらに失われ、息も弱々しくなっている。

「私の力は、もう底をついた」竜は掠れた声で言った。「案ずるな、痛みはない。ただ、また長い眠りにつくだけのことだ」

五 眠りに還る朝、記録に残らない約束

五人は言葉もなく、竜の周りに座り込んだ。ベティが目に涙を浮かべながら「触っちゃだめなんでしょ」と震える声で言うと、竜はかすかに笑ったように見えた。

「今日ばかりは、大目に見てやろう」

その言葉に背中を押されるように、五人はそっと竜の体に手を添えた。冷たくなりかけた鱗の感触を、誰もが忘れまいとするように、長いこと確かめていた。ネッドまでもが、姉や兄たちの真似をして、小さな手のひらをそっと竜の背に押し当てていた。

「ねえ、あなたの名前を教えて」メイが尋ねた。「ずっと『竜』って呼んでいたけど、本当は名前があるんでしょう」

竜は少しの間、迷うように黙っていたが、やがて小さく名を口にした。それは誰も聞いたことのない、遠い時代の響きを持つ名前だった。五人はその名を、めいめいの胸の内に大切にしまい込んだ。誰かに話すつもりも、ましてや書き留めるつもりもなかった。それは、この夏だけの、五人と竜だけの約束だった。

「案ずるな。力を失っても、命が尽きるわけではない。土に還り、また長い時をかけて、少しずつ力を蓄え直すだけのことだ」

「また目覚める?」ロビンが尋ねると、竜はゆっくりと頷いた。

「いつになるかは、私にも分からん。百年か、それとも千年か。だが、いつか必ずな」

「待ってて」トムが洟をすすりながら言った。「僕たちがもういなくなっても、誰かがきっと、あなたのことを待ってるから」

竜はその言葉に、初めて心から愉快そうに笑ったようだった。「おまえたちにしては、悪くない台詞だ」

竜はそう言い残すと、ゆっくりと土の中へ身を沈めていった。最後に見えた瞳は、これまでの気難しさが嘘のように、穏やかな光をたたえていた。夜が明けきる頃には、白亜坑の底に、掘り返された跡だけが残っていた。

その夏の終わり、両親が楡の家へ戻ってきた。五人は騒動の数々について多くを語らなかった。垣根の傷も、井戸の欠けも、村に出回った奇妙な金貨の噂も、いつしか他愛のない夏の出来事として、村人たちの記憶の中で薄れていった。モリー婆さんだけは、五人が坑に通うたびに浮かべる少し大人びた顔つきに、何かを察していたようだったが、最後まで多くを尋ねようとはしなかった。

だが五人だけは知っていた。白亜坑の底に、今もひとつの約束が眠っていることを。時折、夕暮れ時に坑を訪れては、誰にともなく声をかけることが、五人の秘密の習慣になった。地面はもう温かくはなかったが、それでも五人は、いつかまた誰かがそこを掘り当てる日が来ることを、心のどこかで信じていた。

大人になり、それぞれが村を離れてからも、五人は夏の盛りになると示し合わせたように楡の家に集まった。トムは町で商いを営むようになり、メイは自分の家庭を持ち、ロビンは相変わらず古い物語を読み漁る学者になり、ベティは誰よりも遠くの町へ嫁いでいったが、それでも夏が来るたびに、五人は不思議と示し合わせたように顔を揃えるのだった。ネッドだけは幼すぎてあの夏のことをほとんど覚えていなかったが、それでも兄姉たちに手を引かれるようにして、毎年欠かさず坑を訪れた。

そうして日が沈む直前、白亜坑の縁に並んで腰を下ろし、ただ黙って、地平線に太陽が沈んでいくのを見送るのだった。誰かが結婚し、誰かに子供が生まれ、遠い町へ越していく者があっても、その儀式だけは変わらず続いた。それは、決して裏切られることのなかった、たったひとつの約束を確かめるための、五人だけの静かな習わしだった。

あとがき

本作は、E・ネズビットが一九〇二年に発表した児童小説『Five Children and It』を下敷きにした翻案である。原作では、田舎に引っ越してきた五人のきょうだいが、庭先の砂利採掘場で「サミアド(砂の妖精)」という太古の魔法生物を掘り当て、一日にひとつだけ、日没までしか効力の続かない願いを叶えてもらいながら、そのたびに思いがけない厄介事に巻き込まれるという筋書きが描かれる。

本作では、サミアドを、太古から地中深くに眠っていた一頭の仔竜に置き換えた。触れられることと水を極端に嫌う気難しい性分、一日にひとつ、日没までしか続かない願いしか叶えられないという制約はそのまま踏襲しつつ、なぜこの竜が地中深くに一人で眠っていたのかという原作にはない背景を、本作独自の要素として補った。かつて大きすぎる願いを安易に叶えたことで、大切な友を失うほどの悲劇を招いてしまった過去への悔恨から、竜自身が「日没という区切りを決して裏切らない」という誓いを立て、力を失うことを自らへの罰として受け入れていた、という筋立てである。物語終盤、見世物師バクスターが竜に永遠の富を強要しようとする挿話も、原作にはない本作独自の展開であり、ここで竜が最後の力を使い果たすことで、再び長い眠りにつくという結末へとつなげている。

村の名前や人物名、白亜坑という舞台設定、見世物師バクスターとの顛末は、いずれも本作のための創作であり、原典の翻訳や逐語的な引用は行っていない。


本作はE・ネズビット著『Five Children and It』(Project Gutenberg、https://www.gutenberg.org/ebooks/778)を参考にした翻案作品です。

本作はE. Nesbitの『Five Children and It』を参考にした作品です。原典