物語雳
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·読了目安 14分脇役

竜は目覚めを急がなかった

両親を亡くした少女が引き取られた館には、十年も鍵をかけられた庭があった。荒れた蔦の奥で仮死のように眠る小さな竜は、庭が緑を取り戻す歩みと同じ速さで、ゆっくりとその瞼を開いていく。

一 見知らぬ屋敷

セイディ・ウィンダムが両親を失ったのは、遠い南の植民地を流行り病が覆った雨季のことだった。父は入植地の測量技師として、母はその傍らで診療所を手伝いながら、赤い土の丘に建つ小さな家で慎ましく暮らしていた。セイディにとって世界とは、乾いた風にざわめく椰子の葉と、母が毎晩読み聞かせてくれる古い童話と、父が仕事から戻るたびに聞かせてくれる測量旅行の土産話のことだった。だが病はひと月足らずのうちに父を、続いて母を奪い去り、気づけばセイディは白い喪服を着せられて、見知らぬ国の親戚のもとへ送り届けられる船の上にいた。

長い航海の間、セイディは甲板の隅から灰色の海ばかりを眺めていた。誰も彼女に多くを語りかけようとはせず、セイディもまた、誰かに何かを尋ねる気力を持てずにいた。悲しみというよりも、自分の周りだけ世界が静かに閉じてしまったような、そんな感覚だった。

たどり着いた先はグレイモア館。亡き母の兄グレイソン卿が主の、荒野の只中にそびえる石造りの古い屋敷だった。馬車の窓から見えたのは、地平線まで続く低い丘と、その丘を覆う枯れ色の草原だけだった。

出迎えたのは当主本人ではなく、痩せた家政婦のピアス夫人だった。

「旦那様は留守がちでいらっしゃいます。この館のことは、私が万事お世話いたしますので」

夫人の声には、優しさというよりも義務感が滲んでいた。セイディを部屋へ案内する道すがら、夫人は必要最低限のことしか口にしなかった。食事の時間、湯を使える時間、立ち入ってよい部屋とそうでない部屋。まるで館全体に、目に見えない線引きが張り巡らされているかのようだった。

玄関ホールは日中でも薄暗く、廊下という廊下に重い緞帳が下ろされ、壁に並ぶ肖像画の顔さえ判然としなかった。与えられた部屋は東棟の隅、荒野を見渡せる窓が一つだけの、質素な部屋だった。夜になるとその窓の外では、風が絶え間なく丘を渡っていく音だけが聞こえた。

その晩、なかなか寝つけずにいたセイディの耳に、遠い廊下から細い泣き声のようなものが届いた。子どもの声にも、獣の声にも聞こえるその音に、セイディは布団の中で息を潜めた。耳を澄ませても、それきり音は途絶えた。

翌朝、朝食の席で尋ねると、夫人の手はティーポットの上でわずかに止まった。

「風の音でございましょう。この館は古うございますから」

それ以上、夫人は語ろうとしなかった。その日から、セイディは館の中に、誰も触れようとしない何かがあることを、はっきりと感じ取るようになった。

それでも寂しさに負けまいと、セイディは一人で館の探検を始めた。西棟の奥、誰も使っていないらしい客間の扉を試しに押してみると、意外にも軋みながら開いた。埃をかぶった家具、色あせた壁紙、暖炉の上に掛けられたままの、若い女性の肖像画。優しげな笑みをたたえたその人が、セイディの見知らぬ伯母――グレイソン卿の亡き妻なのだろうと、なんとなく察しがついた。誰も手入れをしない部屋の空気は冷たく淀んでいたが、その肖像画だけは、まるで今も部屋の主のように静かに佇んでいた。

日中、屋敷を歩き回ることだけが、セイディに許された自由だった。授業をしてくれる家庭教師もなく、遊び相手もいない毎日は、退屈というよりも果てのない静寂だった。何十とある部屋の扉は大半が固く閉ざされ、開く部屋を見つけても、そこにあるのは白い布をかぶせられた家具ばかりだった。庭仕事を手伝う下働きの老人ハンスだけは、他の使用人たちと違い、時折セイディに会釈を返してくれた。

ある朝、ハンスが花壇の脇にしゃがみ込んで土をいじっているのを見つけ、セイディは思い切って声をかけてみた。

「おはよう」

ハンスは顔を上げ、日に焼けた顔いっぱいに皺を寄せて笑った。

「おはようございます、お嬢さん。この館じゃ、お嬢さんみたいに挨拶してくれる人間は珍しい」

それだけの短いやり取りだったが、セイディにとっては久しぶりに誰かと心を通わせたような、ささやかな喜びだった。それからというもの、セイディは日課のようにハンスのもとへ足を運ぶようになった。多くを語らないハンスも、花や木の名前を尋ねられれば、ぽつりぽつりと答えてくれた。

ある日、裏庭の外れで、蔦に覆われた高い煉瓦塀に行き当たった。他の庭とは違い、そこだけ手入れがされないまま長い年月が経ったらしく、蔦は絡み合い、塀の輪郭さえ隠すほどに生い茂っていた。どこにも扉らしきものが見当たらなかった。

「あの塀の中には何があるの」

ハンスは剪定鋏を止め、しばらく黙り込んでから答えた。

「誰も足を踏み入れちゃいけない庭ですよ。旦那様の奥方様が、十年前にあの庭でお亡くなりになってからというもの、扉には鍵がかけられ、鍵そのものも土の中に埋められたと聞いております。旦那様は、それからというもの、あの庭の名を口にすることすら禁じておいでです」

「誰も、十年も入っていないの」

「ええ。私が剪定をするのも塀の外側だけ。中がどうなっているか、私も存じません」

セイディは煉瓦塀を見上げたまま、しばらく立ち尽くした。塀の内側には暗い緑の茂みが折り重なっているだけだったが、その奥に何かがひっそりと息を潜めているような気がしてならなかった。

その夜もまた、あの細い泣き声が聞こえた。今度はセイディも、空耳とは思わなかった。

翌日、台所の脇を通りかかったとき、料理人と洗濯女が声を潜めて話しているのが聞こえた。

「旦那様には、実はご子息がいらっしゃるらしいわよ。西棟の奥に、誰にも会わせずに」

「病弱でいらっしゃるとか。もう何年も陽の光を浴びていないと聞いたけど」

セイディは足を止め、聞かなかったふりをして通り過ぎた。だが心の中では、あの泣き声と、噂の若様とが、静かに結びついていくのを感じていた。誰に尋ねても、はっきりとした答えは返ってこなかった。まるで館全体が、二つの秘密――閉ざされた庭と、隠された若様――を、固く守ろうとしているかのようだった。セイディは荒野に沈む夕日を窓辺から眺めながら、いつかその両方の扉を、自分の手で開けてみたいと思うようになっていた。

二 鍵のない扉

数日後、セイディは使用人小屋で、ハンスの弟だという少年トビンに出会った。荒野の生まれのトビンは、館の誰よりも外の世界に馴染んでいるように見えた。狐や兎はもちろん、蛇や野鳥までもが、まるで言葉を交わすかのように彼の周りに集まってきた。人見知りの強いセイディに対しても、トビンは物怖じすることなく笑いかけた。

「グレイモア館の子は、みんな怖い顔してるって聞いてたけど、君は違うね」

その屈託のなさに、セイディは思わず頬が緩むのを感じた。両親を失ってから、誰かに笑いかけられたのは久しぶりのことだった。

肩にとまった一羽の駒鳥は、セイディが近づいても逃げようとしなかった。

「この子はよく、庭の塀のあたりを飛び回ってるんだ。何か気になるものでもあるんだろうね」

セイディは煉瓦塀のことをトビンに話した。十年間鍵をかけられたままの庭のこと、ハンスから聞いた奥方様の話のこと。話すうちに、トビンの目にも興味の色が浮かんだ。

「見てみたいな、その庭」

二人が塀に近づくと、駒鳥はふいに飛び立ち、蔦の茂みの一点にとまった。まるで導くようなその仕草に、二人は顔を見合わせ、後を追った。茂みをかき分けると、そこには土に埋もれていたらしい、錆びた鉄の鍵が半分顔を覗かせていた。

「これって、まさか」

セイディは震える手で鍵を拾い上げた。冷たく重い感触が、確かにそこにあることを教えてくれた。

塀を辿ること半刻、二人はついに、蔦でほとんど隠された古い木戸を見つけ出した。鍵を差し込み、力を込めて回すと、長年の錆を軋ませながら、ゆっくりと扉が開いた。埃と枯れ葉の匂いが、二人の頬をかすめて流れ出した。

扉の向こうに広がっていたのは、十年の歳月に取り残された庭だった。丈高い雑草に埋もれた花壇、絡まり合った薔薇の蔓、灰色に枯れた枝。それでも朽ちた木々の隙間からは、かすかな緑の芽吹きが覗いていた。日の光が、長らく忘れられていた地面に、久方ぶりに差し込んでいるようだった。

「誰かが手を入れれば、また息を吹き返しそうな庭だね」

トビンは膝をつき、乾いた土をひとすくい手に取った。

「まだ死んじゃいない。眠ってるだけだ」

その言葉に、セイディは胸の奥が温かくなるのを感じた。自分もまた、この十年放置された庭のように、ただ眠っていただけなのかもしれないと、ふとそんな気がした。

トビンは庭をぐるりと見渡し、指折り数えるように言った。

「バラも、ライラックも、まだ根は生きてる。ちゃんと剪定して、日を入れてやれば、来年には花をつけるよ」

「本当に?」

「うん。植物は簡単には諦めないんだ。土の下でじっと、機会を待ってる」

セイディはその言葉を、まるで自分自身に向けられたもののように聞いた。

その日から、二人だけの秘密として、庭の手入れが始まった。毎日少しずつ、雑草を抜き、絡まった蔓をほどいていく作業は、地道で、けれど不思議な充実感を伴うものだった。土に触れるたび、セイディの指先には木の根のようなたくましさが宿っていくようだった。ハンスに見つからないよう、二人は道具を庭の隅に隠し、毎日入れ替わり立ち替わり、館を抜け出す口実を考えた。

朽ちた四阿の下から古い庭道具が見つかったり、雑草に埋もれていた小径が姿を現したりするたび、二人は歓声をあげた。庭は少しずつ、その輪郭を取り戻しつつあった。

作業を始めて数日目、庭の最も奥まった茂みの陰で、セイディは思いがけないものを見つけた。灰色に色褪せた鱗を持つ、小さな竜だった。蔦に半ば埋もれるようにして横たわり、目を閉じたまま、息をしているようにも見えなかった。最初、セイディはそれを苔むした石像だと思い込み、危うく通り過ぎるところだった。

「トビン、これ……」

声を震わせて呼ぶと、トビンも息を呑んで駆け寄ってきた。二人はしばらく、言葉もなくその姿を見つめていた。

「死んでる、のかな」

恐る恐る首筋に触れてみると、かすかな、けれど確かな温もりと、弱々しい鼓動が伝わってきた。

「生きてる。でも、ひどく弱ってる」

「この庭が枯れていくのに合わせて、この子も弱っていったんじゃないかな」トビンは竜の鱗にそっと指を這わせた。「庭の生き物には、そういうことがあるんだ。土地の力が衰えれば、そこに根を下ろすものも、みんな一緒に衰えていく」

セイディは竜の傍らに膝をつき、周りの枯れた蔦をそっと払いのけた。竜は身じろぎ一つしなかったが、その呼吸はほんの少しだけ、深くなったように感じられた。

「大丈夫。私たちが、この庭を元どおりにするから」

セイディは誰に言うともなく、そう呟いた。

「誰にも言わない方がいい」トビンが声を潜めて言った。「大人たちに知られたら、きっとこの子も庭も、取り上げられてしまう」

セイディは深く頷いた。

「二人だけの秘密ね」

夕暮れが迫る中、二人は鍵のかかる木戸をそっと閉め、何度も振り返りながら屋敷への道を戻った。その夜セイディは、初めてグレイモア館に来てから、泣き声ではなく、竜の弱い鼓動の余韻を胸に眠りについた。

三 三人と一頭

それから毎日、二人は庭に通った。雑草を抜き、絡まった蔓をほどき、土を耕した。庭の緑が姿を現すたび、竜の鱗にもわずかながら艶が戻っていった。ある朝、竜はうっすらと目を開けた。二人を見つめる金色の瞳に、恐れも敵意もなかった。

ある晩、セイディは館の奥、誰も足を踏み入れない西棟の部屋から漏れる灯りに気づいた。そっと扉を開けると、寝台に横たわる同い年ほどの少年がいた。青白い顔で、痩せた体を毛布にくるみ、怯えたような目でセイディを見上げていた。

「誰だ、お前は」

「セイディよ。あなたは」

「フィン。……グレイソン卿の息子だ。誰にも会わせてもらえない。背中が曲がっていて、長くは生きられないと言われている」

フィンは、母を亡くした父の悲しみゆえに、館の奥に隠されるようにして育てられてきたのだった。セイディはその夜、庭のこと、竜のことを語って聞かせた。

「嘘だ。庭に竜がいるなんて」

「本当よ。自分の目で確かめればいい」

フィンは根負けし、車椅子で庭に連れ出された。初めて緑を目にしたフィンは、しばらく声も出せずにいた。竜もまた、車椅子の少年をじっと見つめていた。

「僕と、同じだ」フィンがぽつりと呟いた。「弱ってて、誰にも見つからないようにしてて。……でも、生きてる」

その日から、フィンも加わり、三人と一頭の秘密の時間が始まった。庭の緑が茂るにつれ、フィンの頬にも赤みが差した。竜もまた、少しずつ首をもたげ、短い距離ながら這うように動けるようになった。三人は、庭とフィンと竜の回復が、同じ一つの流れの中にあることを感じ取っていた。

「僕が元気になれば、この子ももっと目を覚ますのかな」

「たぶんね」トビンが答えた。「庭も、君も、この子も、同じ根っこから水を吸い上げてるみたいなものなんだと思うよ」

セイディは竜の鱗を撫でながら、静かにその名を呼んでみた。

「若葉、って呼んでもいい?」

竜は答える代わりに、セイディの手のひらに、そっと鼻先を寄せた。

四 嵐の夜

夏が近づくある日、屋敷にグレイソン卿の急な帰館を告げる電報が届いた。慌ただしい中、セイディはピアス夫人が別の使用人と交わす会話を耳にしてしまった。

「旦那様がお戻りになったら、あの庭のことも、いずれはっきりさせねばならないでしょう。いっそ業者を入れて塀ごと崩し、更地にしてしまうべきだという声もございますよ」

「若様のことも、そろそろ療養院にお預けするべきだと、お医者様が仰っていましたわ。もうこの館では面倒を見きれないと」

セイディは息を呑んだ。庭が壊されれば若葉の安息の場所も失われる。フィンが送られれば、三人の日々が断ち切られてしまう。

その夜、荒野に激しい嵐が襲いかかった。セイディは雨具も纏わぬまま庭へと駆け出し、追いついたトビンとともに、飛ばされかけた支柱を立て直した。庭の奥では、若葉が体を大きく丸め、震えていた。同じ頃、屋敷の中ではフィンが高熱に浮かされていた。

馬車を飛ばして駆けつけたグレイソン卿は、息子の枕元に座り込んだまま、一言も発しなかった。その顔にはただ深い悔恨だけが浮かんでいた。

嵐が過ぎ去った明け方、庭にたどり着いたセイディは、若葉が茂みの陰で力なく横たわっているのを見つけた。開いていたはずの瞼は再び閉じられ、鱗の艶も嵐の一夜のうちに失われてしまったかのようだった。

「お願い、また眠ってしまわないで」

若葉は答えなかった。ただ浅い呼吸だけが、かすかに続いていた。

五 目覚めの朝

フィンの熱は三日三晩続いた。医者は幾度も首を振り、グレイソン卿は寝室の外の廊下を、夜通し行きつ戻りつした。屋敷中に重苦しい沈黙が満ちる中、セイディとトビンだけは、いつもと変わらず庭へ通い続けた。若葉の傍らに座り込んでは、その鱗をそっと撫で続けながら、二人はフィンの回復を祈った。

「フィンが元気にならなきゃ、若葉も本当には目を覚まさない気がする」

「うん。……だから、私たちにできることをしよう」

セイディはそう言って、いつも以上に丁寧に土を耕し、蔓の一本一本を整えた。庭が応えてくれることを、どこかで信じていた。

夜になると、屋敷の窓という窓に明かりが灯り、医者の乗った馬車が幾度も坂道を上ってきた。グレイソン卿は一睡もせず、息子の額に濡れた布を当て続けた。その姿を見た使用人たちは、誰一人として、かつての冷たい主人の面影を見出せずにいた。

四日目の朝、熱がようやく峠を越えたフィンは、痩せた体を起こし、窓の外に広がる緑を見つめた。その目には、これまでの怯えとは違う、静かな決意のようなものが宿っていた。

「庭に、行きたい」

医者は無理だと止め、グレイソン卿もまた言葉を失った。だがフィンの瞳には、これまで見たことのない強い光が宿っていた。

「僕はもう、寝台の上だけで一生を終えたくない」

その一言に、部屋にいた誰もが押し黙った。長い沈黙の後、グレイソン卿は静かに頷いた。

「……好きにしなさい。ただし、無理はするな」

グレイソン卿の声には、これまで聞いたことのない優しさが滲んでいた。フィンはその声に驚いたように父を見上げ、それから小さく頷いた。

車椅子を拒み、フィンは使用人の肩を借りながら、一歩また一歩と庭へ歩き出した。膝は幾度も震え、額には玉のような汗が浮かんだが、フィンは足を止めなかった。廊下を抜け、階段を下り、裏庭を横切る間、その歩みは亀のように遅かったが、確かに前へと進んでいた。グレイソン卿は、その後ろ姿をただ黙って見守った。かつて妻を失ってからというもの、この息子の顔さえまともに見ようとしなかった自分を、彼は苦い思いで振り返っていた。

木戸をくぐった先に広がっていたのは、十年前とはまるで違う庭だった。花壇には花が咲き乱れ、蔓には若葉が瑞々しく茂り、蜜蜂の羽音がそこかしこに満ちていた。土の匂い、花の匂い、緑の匂いが幾重にも重なり合い、フィンはしばらく立ち尽くしたまま、深く息を吸い込んだ。グレイソン卿はその光景に立ち尽くし、亡き妻が愛したかつての庭の面影を、そこに見出していた。

「これが、あの人の庭だったのか」

呟く声は、悔恨と懐かしさの入り混じったものだった。

フィンは若葉が横たわる茂みの前で立ち止まり、支えの手を静かに振り払って、自分だけの足で最後の数歩を踏み出した。一歩ごとに、体中の力を振り絞るようなその姿を、セイディとトビンは息を詰めて見守った。

その瞬間、茂みの奥で若葉の瞼がゆっくりと持ち上がった。灰色にくすんでいた鱗の一枚一枚に、じわりと深い緑の艶が広がっていく。若葉は長い眠りから抜け出すように首をもたげ、体を起こした。折り重なっていた蔦がほどけ落ち、閉じられていた翼が、朝の光の中で静かに広がっていった。土の匂いに混じって、かすかに若葉の匂いが庭中に満ちていくようだった。

「立った……僕は、自分の足で」

フィンの声は震えながらも、確かな喜びに満ちていた。若葉はフィンのそばに歩み寄り、その頬にそっと鼻先を寄せた。少年と竜、二つの回復が、同じ朝の同じ瞬間に、静かに満ちていくようだった。

グレイソン卿はその光景に言葉を失い、膝をついた。長い沈黙の後、震える声で言葉を紡いだ。

「私は、この庭を憎むあまり、お前のことも、この庭に眠っていた小さな命のことも、何も見ようとしなかった。お前が生まれたときの、あの人の笑顔さえ、思い出すことを自分に禁じていたのだ」

「母上が大切にしていたものを、僕たちが代わりに守っていただけだよ、父上」

フィンはそう言って、初めて父に向けて笑いかけた。長らく忘れていたその表情に、グレイソン卿は嗚咽を堪えきれなかった。

若葉は二人を見つめ、ゆったりと目を細めた。脅かすでも力を誇示するでもない、穏やかな眼差しだった。若葉は静かに翼をたたみ、フィンの傍らに身を横たえた。

セイディとトビンは、その光景を少し離れた場所から見守っていた。トビンがそっと囁いた。

「僕らの仕事は、終わったのかな」

「ううん」セイディは首を振った。「これからも、庭は手入れが要る。若葉だって、フィンだって、ずっとこのままじゃいられないもの。育っていくものには、いつだって誰かの手が要るんだと思う」

その言葉に、トビンは静かに笑って頷いた。

その日から、グレイモア館の庭は、二度と鍵をかけられることはなかった。グレイソン卿は業者に塀を崩させる代わりに、庭師を雇い入れ、庭全体をさらに手厚く整えさせた。フィンの体は季節が巡るごとに丈夫になり、やがて自分の足で荒野を歩けるまでになった。かつて館を包んでいた重い緞帳も取り払われ、日の光は隅々にまで届くようになった。三人は来る日も来る日も庭に通い、若葉もまた急ぐでもなく、緑の巡りとともにそこに在り続けた。誰に見せるためでもなく、ただ庭とともに生き、息をする、それだけのことのために。

数年の後、セイディはもうこの館を「見知らぬ屋敷」とは呼ばなくなっていた。荒野を渡る風の音は、かつてのように寂しいものではなく、庭の緑と若葉の寝息に寄り添う、穏やかな子守唄のように聞こえるのだった。

あとがき

フランシス・ホジソン・バーネットの『秘密の花園』は、両親を亡くした孤独な少女が、長年放置された屋敷の庭を蘇らせていく過程で、自らの心も、病弱な従兄の心身も、共に回復させていく物語である。本作では、この庭に、庭そのものの生命力と結びついた小さな竜がひっそりと眠っているという設定を加え、庭・従兄・竜という三者が同じ回復の歩みを共有する構成とした。

竜は呪いから解き放たれるのでも、脅威として立ちはだかるのでもなく、庭が荒れれば衰え、庭に手が入れば緑と歩調を合わせて力を取り戻す、繊細な生き物として描いている。少女が竜に与える「若葉」という名も、庭の再生そのものを象徴する言葉として、本作独自に選び取ったものである。

なお本作は、原典の翻訳や逐語的な引用は行わず、あらすじと構図のみを参照し、人物名・地名・エピソードの細部、竜の設定と名は、すべて独自に創作したものである。


本作はフランシス・ホジソン・バーネット(Frances Hodgson Burnett)著『The Secret Garden(秘密の花園)』を参考にした翻案作品です。

本作はフランシス・ホジソン・バーネット(Frances Hodgson Burnett)の『The Secret Garden(秘密の花園)』を参考にした作品です。原典